《MUMEI》 家の中祖父と祖母の家は大きくて、広い。 戦前に建てられたこの家は、それでも年に一度、建設会社の人がちゃんと点検をしてくれるので、不便なところはない。 「ただいま〜」 「おかえり。お友達にはちゃんとお礼を言った?」 涼しげな水色の浴衣を着ている祖母は、ちょっとボケているが、静かで大人しい。 感情を爆発させたことなんてなさそうな人だ。 「うん…。でもノド渇いちゃった」 「一緒に食べてこなかったの?」 「うん。お客さんが来てたから、遠慮したの」 ある意味、ウソじゃない。 「そう。じゃあ麦茶でも飲む? オレンジジュースも買ってあるよ」 「麦茶飲みたい。オレンジは夜に飲む」 「分かった。茶の間で待ってて」 親戚は多いものの、この実家に帰ってくる者は少ない。 みんな都会に出てしまい、親族が集まるのは年始ぐらいなものだ。 だからわたしが夏休みに帰って来ると、祖父と祖母は大歓迎で甘やかしてくれる。 そのせいか、毎年来てしまう。 茶の間に行くと、夕方の涼しい風が開いた窓から流れてくる。 わたしは風を浴びながら、座布団の上に座った。 風鈴の涼しい音色を聞いていると、眠気が襲ってくる。 「お待ちどおさま。冷えた桃、食べるかい?」 「うん」 祖母は麦茶と切った桃を持ってきてくれた。 前へ |次へ |
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