《MUMEI》
追憶
意識を失ったリースを抱きとめ、その場に座り込む。
それほど遠くない場所から聞こえる、バンプとごま、式夜の声に苦笑を浮かべながら、
「ロア・・またね。」
地面に突き立っているロアの愛槍、クロノ・レベリオンに声をかけた。

(・・・・・)
「ほら、リース。集中、集中。」
姉さんの声が聞こえる。
守護騎士団の修練所。
向かい合うように立っているのは彩詩。木剣を片手に、楽しそうに笑っている。
「は!」
気合と共に木槍を振るい、彩詩と打ち合う。
カン、カン、カカカン。
木と木が打ち合わされる音が流れる。
攻撃しているのは自分だけ、彩詩はこちらの攻撃を受け止め、回避をするだけ。
「や!!」
槍を振るう。
今の自分から見れば呆れるほど真っ直ぐで、単純な攻撃。
回避され、体勢を崩した所に、木剣で軽く肩を打たれる。
「ん〜・・速くはなってるケド、槍に振り回されてる気がするよ。槍の長さ、重さを考えて使わないと、さっきみたいに体勢を崩す。」
こちらに笑いかけながら、彩詩は剣を下げる。
「槍、使えないくせに、何を偉そうな事言ってるのかな〜彩。」
少し離れた所でリースと彩詩の試合を見ていたロアが駆け寄ってくる。
「ロアは、弓使えないのに・・リース、ロアがヒドイよ〜」
疲れて、座っているリースに手を貸しながら冗談交じりに彩詩は笑う。
「・・姉さんも彩ねぇも、どっちも性格歪んでる。」
息も切れていない彩詩を見て、悔しそうにリース。
「よし、お姉ちゃんが仇を取ってあげる。リース、諸悪の根源が倒されるところをちゃんと見てなよ!」
悪戯っぽい表情と言動。姉さんはいつでも楽しそうで、子供っぽい。おやつの奪い合いも良くやった・・いつも私が負けて、全部持っていかれそうになるけど・・「お腹いっぱいだから、半分食べなさい。」とか適当な嘘をついて分けてくれる。そんな困った姉さんだった。
「諸悪の根源ってナニ!リース、私よりロアの方が悪人だよね!?可愛い妹のために・・ロアを倒す!」
応じる彩詩の表情も笑顔。
少し離れて座っている私、楽しそうに対峙する二人。
あの二人は、妹の私が、呆れるくらいに仲が良い。本人達は「悪友」、「腐れ縁」とか言ってるけど、私にすればあんな風に、気兼ねなく一緒に居られる事がうらやましい。
カカカ、カン、カン、ガガン。
木と木が打ち合わされ、音が鳴る。
二人の試合は、戦いと言うより、踊りを見ているような気になる。
正確に刻まれる足音、打ち合わされる木剣と木槍。
知らず、リズムを追うように、
カカカ、カン、カン、ガン。
トトト、トン、トン、トン。
音に合わせて、床を指で叩く。
不思議なヒト。彩詩姉さんはそんな言葉で表現できる。優しくて、凛としていて。暖かくて、側に居ると安心できる。私の事を本当に妹のように可愛がってくれて、真剣に話をしてくれた。
姉さんにとっては友人で、私にとっては・・・ナンダッタノダロウ。大切なヒト?
違う、私は教会に、彩詩姉さんに刃を向ける・・大切なヒトなら・・刃は向けられないハズ。
姉さんが死んだ原因は何処にも無くて・・解ってるハズだ。
ダケド、ワタシハ・・ダレカヲウラマナケレバ、イキテイラレナカッタ。
ドコデ・・マチガエテシマッタノダロウ。

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