《MUMEI》

わたしは桃を味わいながら、山で出会った三人のことが頭から離れなかった。

「ねえ、お祖母ちゃん」

「何だい?」

「お祖母ちゃんとお祖父ちゃんは、昔からここに住んでいるんだよね?」

「ああ、そうだよ。もう生まれてからずっとだね」

「じゃあ山のウワサ話みたいなこと、知ってる?」

「山? 山って、湖があるって話した山のことかい?」

「うん、そう。あそこにお社があったんだけど、手入れされていないみたいでさ。何かあの山にあるのかなって」

「山にお社がねぇ…」

麦茶を飲みながら、祖母はう〜んとうなっていた。

「あっ、お社に関係あるかもしれないけど」

そう言って祖母は語りだした。

「…まあ随分昔のことだけど、私がまだ10にも満たない頃だったかねぇ。あの山のお祭りに参加した覚えがあるよ」

「お祭り?」

「部屋の中から、祭囃子が聞こえてきたの。だから夜だったけど、思わず家から飛び出て山に入ったの」

「けっ結構行動派なんだね」

「昔はね、それこそ若かったもの」

祖母は軽く笑った後、ふと遠い眼をした。

「そこではね、動物のお面を付けた人が参加していたわ」

「お面?」

ふと、コムラのお面が浮かんだ。

「そう。動物のお面。私は持っていなかったから、最後までお祭りにいられなかったんだけどね」

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