《MUMEI》

わたしは苦笑して、祠へ近付いた。

「―こんにちは。はじめまして」

祠へ声をかける。

「ミオ、あなたの好きな水羊羹を持ってきたの。良ければ姿を見せてくれない?」

するといきなり祠の扉が開き、中から二本の細い腕が伸びて、わたしの腕を掴んだ。

「きゃっ!」

「りんっ!?」

「…やかましいのぉ」

声は若い女の子なのに、口調はウチのお祖母ちゃん以上に年寄りだ。

小さな祠から、細い女の子が出てきた。

ミトリが十歳ぐらいの女の子なら、この子は十四歳ぐらいの女の子。

水色のワンピースに身を包み、眠たそうな顔をしている。

「久し振りの人間、か。コムラとミトリの気に入り…いや、キムロも含むか。珍しいのぉ、お嬢さん」

ミオはわたしの腕を掴んだまま、大あくび。

「しかも私の好きな水羊羹まで持参しおって…気が利くというか、バカと言うか」

ミオの目がわたしを見た。

―濃い青。黒に近い青い大きな目。

「―キレイね。ミオの目は」

「おうよ。目は力を表す。美しさもまた然り」

「うん、キレイ。…で、いつまで掴んでいるの?」

「んっ…ああ」

ミオはやっと離してくれた。

…体温が少し冷えた。

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