《MUMEI》 「…バカ。そんなのオレだって同じだ」 ぎゅっと抱き締められると、思わず苦笑する。 こういうところは変わっていない。 「そう言えば後継者問題、解決しそうなんだって?」 「ああ、二番目の姉貴が頑張ってるからな。親父もそろそろ疲れたんだろう」 「由月も頑張っただろう? 12年間も引きこもり続けたんだから」 「最初は意地だったんだけどな。いつの間にか、コレが当たり前になってた」 本人も驚いているらしい。 「まあ引きこもっていたおかげで、2人っきりでいられる時間が多かったわけだし? 僕にとってはラッキーだったんだけどね」 「言ってろ」 クスクス笑いながら、何度もキスをする。 僕の手が、浴衣の合わせ目から彼の肌を撫でる。 肌触りも変わっていない。 由月の手も、僕の着ているTシャツの下からもぐりこみ、背中を撫でる。 「相変わらず男とは思えない手触りだよな。妹だって、こんなにスベスベしていないぞ?」 「都会人だからね。でもこれからは分からないだろう?」 「雅貴は変わらない気がするけどな」 僕の背中を撫でる手が、ふと止まった。 「あっ、忘れてた。大事なことがあったんだ」 「んっ…?」 由月は僕を片手で抱き締めたまま、もう片方の手を伸ばし、机の上からファイルを取った。 「ちょっとコレ、見てくれよ」 「何? コレ」 僕は受け取り、ファイルを開いて見た。 内容はここら辺の土地のことだった。 昔、温泉や金が出たという歴史の一覧表もある。 「…コレ、由月が研究しているの?」 「ああ。昔の資料とか出してさ、まとめてみたんだ」 「ふぅん。分かりやすいし、良いと思うよ」 「そっか。それでオレ、温泉や金を探してみようかと思うんだ」 「へぇ…って、はい?」 思わぬ言葉に、思わず眼が丸くなる。 「探すって…温泉や金? でも取り尽してしまったんじゃ…」 「でもアレから何十年も経っているし、まだ探していない所も多いんだ。地質によっては、また金や温泉が出る所があるかもしれない」 「そうかもだけど…お金持ちになりたいの?」 後継者にはなりたくないことは知っている。 だから考えつくことなんて、それぐらいしかない。 「まあな。金があれば、雅貴を養えるだろう?」 「あっ」 五年前に由月が言っていたことか。 「でっでも本当に出るとは限らないんだろう?」 前へ |次へ |
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