《MUMEI》 「まあな。でも大学を卒業するまでは探してみようかと思ってる。だからそれまでは待っててくれよ」 「あっあのねぇ」 いろいろと言いたいことはあったけど、自信ありげな彼の顔を見ていると、何にも言えなくなってしまう。 良い笑顔するようになったな。 僕はため息をついた。 「じゃあそれまでは、半人前だね」 だから僕も笑って見せる。 「まっ、それはしょうがないな。見つかるまでは、何を言っても半人前だし」 「物分りが良くなって嬉しいよ」 「抜かせ」 僕は由月を畳の上に押し倒した。 「すぐに逆転してやるからな」 「ははっ、楽しみにしているよ」 僕はファイルを置いて、由月の頭を撫でた。 …見つからない…とは思う。 けど、もしかしたらという思いもある。 由月なら、成し遂げそうなのが怖い。 そしてその時、逆転されるのも…いろんな意味で怖かった。 けれどそれから3年後、由月は本当に見つけてしまった。 温泉と金を。 おかげで村は大変賑わい、由月は有名人となった。 そして温泉と金を発見したことを盾にして、二番目のお姉さんに後継者の座を本当に譲り渡してしまった。 伯父は物凄く何か言いたそうにしていたけれど、すでに由月の方がいろいろな意味で上になっていた。 そして僕はと言うと、教師を続けていた。 「約束違反だ、雅貴」 「人聞きの悪いこと、言わないでくれよ。若い教員が僕1人しかいないのに、いきなり辞めるわけにはいかないだろう」 由月の部屋で、僕は彼に恨めしげな顔をされていた。 「…分かった。なら他の所から若いのを引き抜いてくる。大金を積めばいくらでも来るだろう」 「由月、それ悪者のセリフ…」 由月は僕が教師を辞めないことに、不満を持っていた。 でも僕だって、25になって無職は嫌だった。 「まあ教師は辞めてもらうとして」 ぎくっ★ 「逆転のことは、実現させてもらうぞ」 やっやっぱり話はそっちにいくのか。 ぐいっと手を引かれ、由月の腕の中に捕らわれた。 「ずっと待ってたんだからな」 「あはは…。執念深いね、由月」 「小学一年のオレに、一目惚れし続けたお前が言うことか?」 ああ、それを言われると…。 「あっ、ねぇ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」 「何だよ?」 「由月はいつから僕のこと、好きになってくれたの?」 前へ |次へ |
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