《MUMEI》 そう言いながら、わたしは彼に背を向けた。 彼は女の子が抱いてほしいと言えば、その言葉も受け入れてしまう。 …所構わず。 なのでこういうシーンを見かける生徒は、後を絶たない。 まさか自分がその一人になろうとは…。 まあ元はと言えば、机にノートを忘れた自分が悪いんだけどね。 放課後、クラス委員会が行われた。 このクラスの委員長であるわたしは、もちろん参加した。 だけど教室の掃除当番も重なっていて、教室を出て行く時は慌てていた。 そして委員会を終えた後に気付いた。 明日までの宿題をやるのに必要なノートを教室に忘れたことを。 だから取りに来たのに、引き戸を開けた瞬間目に映ったのは、床に座っている彼と、その上に乗っていた例の彼女…。 二人とも制服が乱れていて、何をしていたかなんて一目瞭然。 「大体放課後の教室でああいうことするもんじゃないわよ。いつ見回りの先生が来るのか、分からないじゃない」 「そんなの部活が終わってからだろう? こんなに早くは来ないさ」 後ろで衣擦れの音がする。 どうやら言われた通りにしているらしい。 ほっとしながら、自分の席に向かう。 机の中を覗きこむと、目的のノートがあった。 カバンの中に入れて、彼を見ないように出口に向かった。 「それじゃ、お邪魔して悪かったわね。また明日」 「ちょい待った」 いきなり後ろから抱き締められた! 「なっ! 放しなさいよ!」 わたしよりも頭一つ分大きく、体格も良い彼に捕まると動けない! うわっ…! しかも何か甘い匂いがする。 コレって…香水? 彼の香水だ。たまにすれ違う時に、匂ってきた香り。 <どきんっ!> 意識した途端、心臓が高鳴ってしまった。 「ちょっと…!」 ジタバタと暴れるも、男女の体格差は悲しいものがある。 「暴れんなよ、委員長」 耳に直接ささやかれ、<ぞわっ!>と全身に鳥肌が立った。 「ななっ!」 「さっきの途中で止められたせいで、くすぶってんだ。消化させてくれよ」 「わたしが知るかぁ! 放してよ! 色情魔!」 「委員長」 わたしの耳に息をふきかけるようにして、彼は言った。 前へ |次へ |
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