《MUMEI》

まっ、彼もきっと一時の興奮からしたようなものだし、明日になったらきっとアッサリしているだろう。

何せわたしには一応、彼の弱味を握っているし、多分…大丈夫!

…と思っていたのに。

翌朝、教室の引き戸を開けると…。

「おはよう。みん…」

「おはよう。オレの子猫ちゃん」

<ぞわっ!>と全身に鳥肌が立つのと同時に、彼に正面から抱き付かれた。

「なっ!?」

途端に周囲からは女子生徒達の悲鳴が響き渡る。

「ちょっ、朝から何すんのよ?」

「ん? 朝の挨拶」

ハグがかい! 

「というか昨日のこと、忘れたの?」

わたしは暗に写メのことをチラつかせた。

しかし彼は余裕の態度を崩さない。

「分かっているよ。アレ以上のことは、お前の許しがない限りはしない」

「あっそう…」

…って、何か今の言い方、おかしくなかった?

しかもまだ抱き着かれたままだし…。

「あっあのさ、離れてくれない? 挨拶なら済んだでしょう?」

「いや、まだだ」

そう言ってわたしの顔を大きな両手で包み込んだ。

「んっ」

「ん〜!」

そして、キスされた。

唇にっ!

さっきよりも上回るほどの悲鳴が、学校中に響いた。

わたしも悲鳴を上げたかったけれど、彼の口で塞がれては何も言えない。

幸いなことに(?)触れるだけのキスで、すぐに離れた。

「なっ…なななっ!?」

「キスまで、なら許してくれるんだろう?」

「誰がいつ、そんなこと言ったのよ!」

わたしが言ったのは、『これ以上、変なことをしないように』だ!

…『これ以上』?

コレ…って、キスって意味?

まさか、コイツっ!

そういう意味として受け取ったの?

「前々からお前のことは気になってたしな。オレもそろそろ本気になりたいところだったし、ちょうど良いな」

そう言って軽々とわたしを抱き上げた!

視線が痛い! ざくざく刺さってる!!

「キスだけで惚れさせてやるよ」

「何をバカなことをっ…!」

頭に血が上り過ぎて、上手く言葉が出てこない。

「お前、気持ちイイこと好きだしな。絶対に夢中にさせてみせる」

自信たっぷりに微笑む彼の笑顔を間近に見て、思わずクラッ…とくる。

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