《MUMEI》 一人暮し結局、何を言うこともできないままだ。 タイキはため息をついて、ベンチにもたれた。 そして遊ぶ子供たちを眺める。 そういえば、なぜ彼女はあんな顔で親子を見たのだろう。 ひどく寂しそうな表情だった。 彼女の敵対心に満ちた表情が唯一、その時だけ変わったのだ。 しかし、タイキはすぐに考えを振り払うように首を振る。 やめよう。 あんな女と関わったら、きっとろくなことはない。 たしかに、何か面白いことはないかと思っていたが、厄介事は御免だ。 タイキは一人頷くと、アパートへと歩き出した。 アパートについたタイキは鞄を部屋に投げ、制服を着替える。 タイキは一人暮しをしている。 この春、父の転勤で両親だけ地方へ引越した。 タイキは受験生ということもあり、いまさら転校もないだろうということで、一人残ることになったのだ。 おかげで今は気楽に生活ができている。 冷蔵庫からペットボトルを取り出して、ベッドに座る。 そして固定端末をテレビモードにしてつけた。 テレビ専用のスクリーンに比べて画質が劣るが、一人暮しのタイキに、スクリーンを買うほどの余裕はない。 つけたチャンネルでは、ちょうどニュースをしていた。 この前発見された他殺死体の身元が判明したらしい。 無表情なアナウンサーが被害者の名前を告げている。 タイキは興味なさ気に、ペットボトルの水をグイッと飲むと、チャンネルを変えた。 こちらでは音楽番組をしている。 今週の配信ライキングが十位から順に発表されていく。 どれも聞き慣れた曲ばかりだ。 続けて、まもなく配信開始となる新曲の紹介に移った。 その中の一曲に耳を奪われる。 「ミライか。新曲出るんだ」 独り言を呟きながら、タイキは水を口に含んだ。 あとで予約を入れとこう。 タイキは番組を最後まで見ると、端末を終了させた。 そして冷凍食品で簡単に夕食を済ませて勉強に取りかかった。 前へ |次へ |
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