《MUMEI》

コムラは慌てて自分の口を手で塞いだ。

「でっでも、りん! 危険だって分かってる? 山の主はとても気性が荒いの。何より…人間嫌いで…」

ミトリの声がだんだん小さくなっていく。

「―良いじゃないか」

「キムロ!」

コムラがキムロを睨み付ける。

「最後の思い出として、ね?」

キムロがわたしに微笑みかける。

…ああ、本当に狸は人を化かす。

でもわたしはあえて、化かされる。

「ええ、最後の思い出として、ね」

「りん…」

コムラが心配そうにわたしを見ている。

「大丈夫だから、ね?」

「うっうん…」

「コムラっ! 本気で…」

「いざとなれば、守れば良いだろう?」

「キムロ! あなたって人はっ…!」

ミトリがギリッと歯噛みする。

「…分かったわ。ホントにいざってなったら、りんのこと、あたしも守るわ」

「ありがとう、ミトリ」

ぎゅっとミトリの手に力がこもった。

「さて、主はあっちみたいだ」

キムロが指差した方向には…。

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