《MUMEI》
山の主
真っ白な着物に身を包む人…ではなく、神がいた。

神社の神主さんが、祭事に着るような和装だ。

二十代そこそこに見える美青年、山の主は面を着けていなかった。

必要ない―ということだろう。

コムラの手は少し震えていた。

わたしはコムラの手を強く握り締める。

するとコムラは弱々しく微笑んでくれた。

わたしはお面の中で、微笑む。

そして、山の主の前まで来た。

神秘的な雰囲気をまとう主の周りには、蛍が飛び交っている。

主に従うように、主を守るように―。

「主、お久し振りです」

まずキムロが声をかけた。

すると主はゆっくりと振り返り、こちらを見る。

「―キムロか。久しいな」

「ええ」

キムロは緊張なんてしていないように見える。

流石は狸。

「こんばんわ、主」

続いてミトリも挨拶をする。

「ミトリも一緒か」

「うん、たまにはね」

隣のコムラが息を吸う音が聞こえた。

「こんばんは、主。お久し振りです」

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