《MUMEI》
大事な話と過去
悠一と二人、ここを出ていくと決めてから2週間後、梨央は部屋に廉を呼び出していた。
自分達の考えを、この人なら分かってくれると信じて…




「失礼します」

「あぁ、廉。急に呼び出したりしてごめんなさいね。そこにお掛けになって。大事な話があるの」

「大事な話…ですか?」

「えぇ。とっても大事な話なの」




廉の向かい側に座り、梨央は真剣な表情で悠一とこの屋敷を出ていきたいという話をした。悠一と梨央が会っていたことなど、知っている者はいないはずだから、その辺も含めてできるだけ簡潔に話を進めた。
そして話終わったとき、廉は静かに口を開いた。




「悠一君と会っていたこと、実はもう知っていました」

「え!?し、知っていたのか!?」



梨央は驚きのあまり、素の言葉遣いで話してしまった。そして、自分の失敗にハッとし、「い、今のは、その…」と焦った。その様子を廉は、あろうことかクスクスと笑って見ていた。




「無理して丁寧な言葉を使っていることも知っていますよ。貴女は小さい頃、翔や輝の真似をして男の様な話し方でしたからね」

「あ、えっと」

「無理しないで、普通に話してくださって構いませんよ」

「廉…」




廉はいつもそうだった。僕が小さい頃から、いつも気遣いの上手い人で、僕もそんな廉を本当の兄のように慕っていた。
なのに、いつからか上下関係が生まれ、廉は使用人として敬語でしか話さなくなり、彼の存在を遠くに感じるようになっていた。

幼い頃の僕にはそれが理解できなくて、ただ廉に嫌われたと思い込んでいた。でも、大きくなるにつれ、僕は気付いたんだ。廉は使用人として僕を気遣い続けていることに。


だって廉は、僕を"お嬢様"と呼んだことなんて一度もないんだ。


もちろん、使用人やメイドの話の中ではお嬢様と呼ぶけど、僕の前では決してそう呼ばなかった。廉は、僕がお嬢様という立場を嫌がっていることに気付いてたんだね。




「…廉、ありがとう。ねぇ、廉も前のように僕と接してくれないか?」

「梨央ちゃんがそうしてほしいというなら、喜んで」




廉は数年ぶりに、梨央の名を口にしたのだった。

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