《MUMEI》

二ノ宮和也。


王者聖龍高校のキャプテンにしてエース。


プレッシャーに押し潰されそうな立場に置かれる彼だが、


実際のところ彼にプレッシャーはなく、


過剰な自信があるわけでもない。


見えているのは確かな現実。


自分の実力。


味方の実力。


相手の実力。


そして互いのチームの実力。


多くの選手たちが全国大会出場という目標を掲げる中で、


彼に見えていたのはそんなものではなく、


全国制覇。


ただそれだけだった。


昨年、


2年生ながらもスタメンで左45のポジションを定着させていた彼は、


既に全国制覇の経験者。


これは桜井も同様である。


が、


現時点で桜井と二ノ宮には決定的な違いがあった。



『支える者と支えられる者』



能力が高く、


センターとしても抜群のセンスを誇る桜井。


実質的にゲームを動かしているのは彼だが、


実はその裏で二ノ宮がいるという安心感に支えられている。


ここまで二ノ宮が大人しかった理由。


それはこの大会のさらに先を見越しての物だった。


現在、


聖龍高校の選手たちは間違いなく全国区のプレイヤーへと成長を遂げている。


しかし、


不安要素がないわけではない。



『経験値の不足』



桜井・二ノ宮はともかくとして、


井川・広瀬・阿久津・鈴木・奥本の5人には全国大会の経験がない。


阿久津・鈴木・奥本の3人に関しては3年生になってからスタメンになっており、


試合経験の数も2人に比べるとやはり少ない。


最終的なベストメンバーが固定したその瞬間から、


二ノ宮の試合に臨む姿勢は変わっていた。



『自分以外のメンバーに経験を積ませる』



という物に。

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