《MUMEI》

有志の唇が少しだけ乾いていた。
指の腹で何度も撫でる。


「寝なさい。」

瞼がぴくりと動き、諭された。


「抱きしめてて。」

有志は優しいから、ぎゅっとしてくれる。


「俺なんかを好きなのか。」

ぼくの首筋に唇が埋まる。


「なんかじゃない、有志だから好きなのに。」

有志が俺に素っ気ない態度なのが気にくわない。
一昨日の夜はあんなにがっついてたのに、些細なことに一喜一憂して馬鹿みたいだ。


「……物好き。」


「そうかな?有志って影があって魅力的だよ。ぼくはどちらかと言えば情熱的な優しい有志が好き。」

有志の素っ気ない態度も理由がある。
明日はお互い仕事だから、有志は早く休むように宥めているのだ。

ぼく達は体を温め合う雛鳥のように、身を寄せ合い眠る。

有志に抱いていたものは確かに彼が言うように傷の舐め合いの心境だったもしれない、有志とこうして居ることでぼくの中で何かが変わりはじめたことを彼は知らないのだろう。
有志は自分をどう思っているのか、本当の気持ちを確かめるのは怖い。

自分の気持ちを打ち明けても有志から本当の言葉を引き出すことは出来ない。
母さんの言葉は呪いのように反芻する。

『あんたは私とあいつの子供だから、愛し方を知らない。
愛の無いものの間から生まれた子供には愛することは出来ない。』

母さんの打つ手はいつの間にか足に、足から煙草になった。


「昨日ね、天使さんのドラマが再放送してたよ。目の見えない役でさ、最後には大好きなお姉ちゃんと友達の為に死んじゃうんだよ。悲しかったなあ……」

忘れるように口を動かす。


「見たことある、あそこで死ぬのは予想できたけど、いただけなかったな。演技が上手過ぎて終わりまで死んだところが引っ掛かってスッキリしない。」

確かに、天使さんの死んだ後の記憶はあまり無いドラマだった。


「好きだね……ドラマ。」

いけない、感情が溢れる。


「偶然だ。テレビは、たまに付ける。朝ドラとか、大河とか、相撲も。」


「ふふ、大河は仕事場の人達ちゃんと見てるよ。面白いんだったらぼくも一緒に見るかな。」

音が、怖くなる。だから、テレビは避けていた。
有志も気付いてて、さりげなく電源を抜いている。

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