《MUMEI》

今日から、おれはちゃんと『椎名みつる』だ。




「うし!!」



小さく気合を入れて、おれは教室の扉を開いた。




「おお〜、みつるおっはー!」



瀬田の間抜けな声が響き渡る。

相変わらず声でけえな。



「おう、おはよ」



答えて席に着く。


久しぶりの自分の席だ。ひそかに喜びを噛みしめていると、



「…何にやにやしてんの」



瀬田が訝しげに呟いた。




「…へ??」


え、おれにやにやしてたか!?



「気持ち悪いぞ、お前…。
最近おかしいとは思ってたけどさあ…」



「…え、そっそんなことはねえよ!!」



「その慌て方が怪しんだよなあ〜」



瀬田がおれをにやにやしながら眺める。



「…怪しいって、何が…」


「女」


「………は?」


「だから、女、できたろ??」


「お、おんな…」


「そ。彼女じゃなけりゃ、好きなやつできたろ??」


「……っ!!!」



言葉に詰まった俺を見て、瀬田はげらげらと笑い始めた。



「ま、まじで!?おま、顔真っ赤だぞ!!
…やっべ、かわいー!!!」



ぎゃはは、と笑い続ける瀬田に、おれはヘッドロックをかけた。

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