《MUMEI》

「……聞いたら、僕は確実にアナタを巻き込むけど。いいの?」
「……だったら聞かねぇって選択肢は?」
「あると思うの?」
「……ねぇのかよ」
ならば最初から問う事などしなければいいのに
深い溜息を吐くエイジだったが、この少年には異を唱えた処で無駄だろうと
取り敢えずは詳しく話を着てやるためまた自宅へと戻る事に
中へと入れば、出掛けた時のまま立ち尽くしているルカの姿があって
呆然としたままでいるルカへ
エイジは目の前で手を振ってみせる
「ルカ―?」
何度か手を振ってやり、漸くエイジの帰宅に気が付いたルカ
暫くエイジの顔をまじまじと眺めていたかと思えば
不意に、その頬に涙が伝い始めていた
「……先、生。何所かに、いっちゃ嫌……」
肩を揺らし、本格的に泣きはじめてしまったルカ
エイジの服の裾をしっかりと握りしめ離そうとしない
「……この子、どうして泣いてるの?」
泣きじゃくるルカを見やり、その様子にアリスは不思議気な顔で
だが話してやる事が面倒なのか、エイジは何を返してやる事もせずに
ルカを抱き上げてやり、宥めるかの様に背を叩いてやる
「……少し、昼寝するか」
居間のソファへとルカを寝かせてやり、エイジはその傍らへ
柔らかく髪を梳くエイジの手に、ルカは小さく頷くとゆっくりと眼を伏せた
すっかり寝入ったのを確認すると、都合よく近くあったバスタオルをかけてやり
そしてエイジはアリスの元へ
「……僕、何かした?」
ルカの様子が気に掛ったのか、僅かばかり曇った表情のアリス
エイジは溜息をつくと、気にするなと短かく返し食卓の椅子へと腰を掛け直す
アリスへも向かいに腰かける様言ってやり、話を聞く体制を拵えてやった
「で?詳しい説明とやら、して貰おうか」
テーブルを指で小突き、早く話す様促してやれば
だがアリスはゆるりとした口調で漸く話す事を始める
「別に、今世界がどうかなってるとかは全くない」
「は?」
「異変は、これから起こる。あいつの所為で」
だからそれを止めに逝くのだ、とアリス
語るソレは、聞いてみる処によると今はまだ推測でしかないというのに
一概に全てを否定する事は、どうしてか出来ない
「……話が極端にでか過ぎる。もう少し噛み砕いて話せ」
「……これ以上、完結になんてできないよ。何とか理解しなよ」
随分と一方的な物言いに、だがエイジは反論する事はせずにおいた
何か返せば、話が振り出しに戻るだけ
それだけは遠慮したい、とそれ以上聞く事を止めていた
「で?結局の処、テメェは俺に何をしてほしい訳だ?」
ソコが本題だと問うてやれば
アリスは余り表情を変えないまま、エイジへと徐に何かを渡してくる
ソレは、手の平に納まってしまう程小さな鐘
だが何の説明なくソレを手渡されt処で
ソレが一体何を意味するのか、知る事が出来る筈もない
「……何?」
訳がやはり解らず、その難解な表情が顔に出ていたらしく
アリスが不思議そうに首を傾けてくる
そんなアリスへ
エイジは溜息をつきながら、一応は渡された鐘を揺らして改めてその意味を問うてみれば
「……それが何か、本当に知らないの、アナタ」
まるで小馬鹿にした様な顔を向けられた
しかし、まともな状況説明が成されていない居間の状況で理解しろと言うう方が無理な話というもので
つい異を唱えそうになるのを堪え、だから説明しろ、とアリスへと急かしてやる
「……口で説明できるほど、簡単な事じゃないよ」
聞くよりは見ろ、とアリスがエイジの腕を引いた
どうしても納得できず、引く腕に従わずにいると
「エイジは居るかい!?」
けたたましい足音と共に店の戸が開け放たれる
その騒々しさに店の方へと顔を出して見れば
「あ!エイジ!ちょっと大変だよ!」
何事かあったのか、顔見知りの老婦人が飛び込む様に店へと入ってきた
「何の騒動だ?婆さん」
普段とは違った様子に、だが栄治はのんびりとした口調で問う事をしてみれば
その老婆は説明するより先にエイジの腕を掴み
老体とは思えない程の力強さで外へと連れだしていた
そして、見えたものは
街中に広がる、オオカミの群れだった
「一体、何が起こっているんだい!?」
すっかり動揺してしまっている老婆
エイジは傍らへと付いてきているアリスへと向いてやり

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