《MUMEI》 「あら、…」 私たちが保健室のドアを開けると、 香織さんはいつものように微笑んだあと、 少し、難しい顔をした。 「―…あなたたち、もしかして―…」 「…うん。元に戻ったの!! いろいろありがとね、香織さん!」 「戻ることができました。 ほんとに、ありがとうございました」 二人で揃って頭を下げる。 「…ちょっと、顔上げて! お礼なんか、言う必要ないわよ。 あたしは何もしてないわ。あなたたちが頑張ったから、戻れたのよ。 …おめでとう、よかったわね」 そう言って香織さんは、 とても優しく微笑んだ。 「…っ…香織さん!!」 私がその優しさに感激していると、 「そうね、でも…」 香織さんが座っていた椅子から立ち上がり、 こっちに近づいてきた。 そして 「…え??」 椎名くんの白い頬に指先を這わせると、 「…椎名君には、『お礼』してもらおうかしら…??」 満面の笑みで、とんでもないことを言い出した。 「…お礼、ですか…??」 きょとんとして首を傾げる椎名くんに、 香織さんは、 「そ。 …椎名君にしかできない『お礼』よ」 とんでもなく色っぽい声でそう囁くと、 椎名くんの唇を指先でそっとなぞった。 「〜…っ!!だめ、駄目〜っ!!!」 私は慌てて香織さんと椎名くんの間に割って入った。 「あら、ようちゃんには関係ないコトじゃない。 あたしは、椎名君に用があるのよ、ねえ??」 問いかけるように椎名くんを見上げる香織さん。 「え?」 まだ事態を飲み込めないらしく、 首を傾げる椎名くん。 「そういう、無防備なところがイイのよね〜」 「そういう、無防備なところが 危なっかしいんだよ、椎名くん!!」 「?…むぼーび??」 本当に困ったような顔で、さらに首を傾げる椎名くん。 香織さんはくすくすと笑っている。 …もう!! 私も、かわいいな、って思っちゃってるけどさ… 私は、大きなため息をひとつついた。 前へ |次へ |
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