《MUMEI》

危険を感じた私は、椎名くんを先に帰した。



「もう、お願いだから…椎名くんにだけは、
変なことしないでよね!!」



私が怒って言うと、



「はいはい。わかってるわよ。
…だって、ようちゃんのだ〜い好きな男の子ですもんね??」



さっき、触った癖に!!!



「…さっきのはほんの冗談よ。
それに、もう生徒には手を出すつもりないわ。
―…あたし、結婚するもの。」



「そう、ならよかった」




―…って





「け、結婚…っ!?」


「そ。結婚」


「え、なにそれ!!聞いてないよ!?」


「だって今初めて言ったもの」


「えぇ〜!?…あ、相手はっ!?」


「ふふ、ようちゃんも知ってる人よ」


「私も知ってる!?
…ええ?誰だろ…??」


「ヒント。―…このガッコの先生よ」


「うそ!?」


「ホント」


「えええ!?…ますます分かんないよ…」


「あら、今のもう一回言ってみて??」


「え??…ますます分か…―…えぇえっ!!?」



目を丸くした私に、香織さんがにっこりと微笑む。



「…まさか…


…まっすー……??」


「正解♪」


「うそぉ…いつの間に…」



話を聞いてみると、香織さんは、全く自分に興味を示さない男の人に対して
『燃えてしまう』らしい。



「興味示さないどころか、あたしの名前すら覚えてなかったのよ??」


超美人である香織さんに興味を示さない男の人は、珍しい。
まっすーは、香織さんがいくら言い寄っても、
少しも興味を持ってくれなかったらしい。



「女のプライドがズタズタにされたわ」




香織さんは、まっすーに何度もかわされるうちに、
本気で好きになってしまっていたらしい。



「そりゃあもう、死ぬ気でアタックしたわよ」



いたずらっぽく笑う香織さんは、
いつもの何倍も綺麗に見えた。


こんなに綺麗な香織さんでも、上手くいかないことってあるんだなあ…。



「まあ、結婚って言っても、あたしが一方的に決めたんだけどね」


「へ??」


「やっとのことで恋人になれたのよ??
…逃さないために、ね♪」


「…………」



…やっぱすごいな、香織さんって。

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