《MUMEI》 東京時刻ステージに立つのは嫌いじゃない。 ただ、自分は「声」として、表現者として孤独だ。 チームではあるが、彼等は仲間ではない、他人だ。 一人一人、目標も違えば構成も違う、奏でるパートも違う。 共有する時刻は同じでありながら平行線で同時進行する譜面だ。 自分達の目の前に居る観客だけがこの平行線を一つのものとして感じる権利を有する。 自分の声を伝えられるのはこの数時間のみ、今の気を纏えるのも……。 父親が死んだ。 ずっと話せなかった言葉も泡のように弾けてゆく、結局はたいしたことない内容だったのだ。 自分の親が死んだと知れば観客は同情してくれるかもしれない、しかし、観客の親が死んだらどうだろう。 自分達はこの群集の中の一人の不幸を知らないまま、いつもの音楽を始めるのだ。 昔の自分ならば死に対して嫌悪にも似た恐怖と憐憫、喪失感が襲っただろう。 今は、声を張り上げる術がある。 慟哭だ。 前へ |次へ |
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