《MUMEI》 樹に屋上のときかすめた不安が広がる。 斎藤アラタは崩れた自分自身を反映しているようだ。 「危うい」 樹は口に出してしまっていた。アラタを見ていると息が苦しくなる。 ”なおえ“は来ない。 抱きしめたかった。 「なおえ…………」 「その声止めろよ、耳障りなんだ」 見ていてはいけないという、防衛本能が樹を動かす。脳が機能しない、電波が勝手に体に命令している。 樹はアラタの白い歯を唇で隠した。 甘い痺れが低周波のように広がる。 前へ |次へ |
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