《MUMEI》
19.
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丈 が離婚してから 香 は毎日、 丈 のアパートへと来て 丈 の為に尽くしていた。
丈 は 香 の事が好きになって 香 と一緒に暮らしたいと思っていた。
そんな中、三日前に宝くじ売り場のおばあさんに、くじ券が当たっているから銀行に行けと言われてから直ぐに銀行に行った所、一等の二億五千万円が当たっていた。
丈 は直ぐさま五千万円だけを下ろして宝くじ売り場へと走って戻った。

丈「おばあさん…ハァ〜ハァ〜…」

おばあさん「なんだい!?息を切らして…全力坂でもして来たのかい?」

丈「いや、ハァ〜ハァ〜…おばあさん、本当に有り難う。これ、ハァ〜ハァ〜…少ないけど…」

と息を切らしながら、おばあさんに五千万円を渡した。
おばあさんは怖い表情をして 丈 に怒鳴った。

おばあさん「私は、こんなお金なんて要らないんだよ!お金を持って、とっとと帰りな!」

丈「えっ!?でも…」

おばあさん「でも、じゃないよ!」

丈「あっ、いや、でも…せめて御礼だけでも…」

おばあさん「私はね、エキゾチック・ジャパンのプリンケーキが大好きだよ。」

丈「あっ、はい。分かりました。今、直ぐに買って来ますね。あと、おばあさんの名前を聞いて良いですか?」

おばあさん「私かい?…私は郷 瞳(ゴウ ヒトミ)って言うんだよ。瞳さんって呼んでおくれ。」

丈「はい、有り難うございます。ひ、瞳さん。」

丈 は急いでエキゾチック・ジャパンって言う洋菓子店のメインデザートケーキのプリンケーキを買って瞳さんに手渡した。
その帰りに 香 に、お揃いの指輪を、いや、結婚指輪と言っても良いかもしれない。
安い指輪だけど…買って帰った。
直ぐに 香 に指輪を渡して結婚して欲しい事を言おうと思っていたが、なかなか言い出せなかった。
それと 丈 は自分の身体の体調が悪いので宝くじで当てた一等の二億五千万円(少し遣ってしまったが)の全てを 香 に渡そうと遺言書を書いたのだ。
梅雨で凄く蒸し暑い日で今にも雨が降り出しそうに鈍よりと曇っていた。
「コンコン、コンコン…」と玄関をノックする音がしたので 丈 は「ん? 香 か、今日は珍しく電話をして来ないできたんだ」と心で呟きながら玄関を開けると…そこには真理が立っていた。

真理「全てあなたのせいよ!」

と言いながら入って来た。

丈「な、何が?…真理、どうした?」

真理は 丈 の言葉など耳に入らない様子で台所に置いてあった包丁を手に取ったかと思った瞬間に真理は 丈 に抱き着くように包丁を 丈 に突き刺した。
突然の真理の行動に 丈 は訳が分からなかったが真理を抱きしめて真理を落ち着かせた。

丈「真理、大丈夫か?落ち着いて、な。大丈夫だから大丈夫だから。」

真理は自分がした行動に震えが止まらなかった。
丈 は更に真理を抱きしめて真理を落ち着かせていた。

丈「大丈夫だから大丈夫だから。」

真理は少し落ち着いたのか 丈 の言う事に頷いていた。

丈「そうだ。良いよ。少しずつ身体の力を抜いて…」

真理は頷きながら身体の力を少しずつ抜いた。
丈 は台所の近くにあったタオルで真理の手をキレイに拭き 丈 に突き刺さってる包丁の柄をタオルでキレイに拭いた。

丈「真理、良いかい、良く聞くんだ。真理は、ここに来なかった。良いね。街に行ってアリバイを作るんだ。良いね。分かったかい。」

真理は 丈 の言う事に何度も何度も頷いていた。

丈「よし、深呼吸をして誰にも見付からないように街に行くんだ。良いね。」

真理は頷いて深呼吸をしてから部屋から出て行った。
丈 は激痛を堪えながら玄関のドアノブなどをタオルで拭いて部屋に戻り遺書を書き始めた…
遺書を書き終えた時に携帯電話が鳴った。
丈 は意識が薄れて行く中を携帯電話に出た。

香「今、光が丘の駅だから、もう少しで… 丈 !?大丈夫!? 丈 !?」

丈「うん、有り難う…最後に 香 の声が…聞けて本当に良かったよ…」

香「お願い!シッカリして!今、直ぐ行くから… 丈 !!」

丈「……‥、‥‥・・・」


安野 丈 、死亡・・・



つづく

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