《MUMEI》 其処に隠し持って居たらしい刃物の様なな何かを取って出す 『……消えて』 短い言葉の後、刃物が肉を抉る鈍い音 同時に、辺りが真紅に染まっていく 「……あ゛」 言葉にならない呻き声が口から漏れ、 その身体が床に伏す 無様に倒れ込んだ深沢、その傍らへと陽炎は座り込み 開けた傷口へ指をさし入れると 其処から幻影を捜し始めた 耳に障る、嫌な水音 傷口を更に抉られる痛みに耐え兼ね、喚くような声を上げてしまえば だがいくら傷口から中を抉ってみた処で、幻影が現れる事はなかった 『……何所に、居るの?幻影、幻影!』 深沢の血液にすっかり汚れてしまった陽炎 だが構う事もぜず、見つからない幻影に落胆するかの様に肩を落とす 『……ここには、居ない。……早く、探さないと……』 手荒く深沢から刃物を抜き取り、踵を返すとそのまま消えていた 後に残された深沢 だが自分一人では身を起こす事さえ出来ず、どうにかしようと床を這い始める 数歩分、その状態で進んだ 丁度その時 深沢の前へ、ふわり幻影が姿を現した ぼやけてしまう視界の隅にその姿を捕え、深沢は縋る様に幻影へと手を伸ばす 一体、どうなってしまっているのかソレを問うてみた処で 当然、幻影から声としての言葉が返ってくるはずはないのだが 今は、不確かでしかないソレにすら頼りたかった (満ちる月は、ヒトの全てを奪う) 途切れる意識の際に聞こえてきたソレは一体誰の言葉か 求めていた返答とは僅かに違うが、返ってきた声を傍らに聞きながら 深沢はそのまま、眠りに落ちるかの様に意識を手放していった…… 前へ |次へ |
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