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《MUMEI》 式場が家まで遠いせいで、ホテルに泊まりだ。 二郎は背もたれを深く倒して、ぐったりしてる。 白い喉が剥き出しになっていた。 ｢綺麗な……｣ 思わずキスしてしまう。 ｢こそばゆい｣ 額を叩かれた。 ｢まだ気持ち悪い？｣ ｢大分楽になった、さっき、漢方薬みたいなのを飲まされたからかも。｣ 綺麗な兄ちゃんが妙薬でも渡したのだろうか？ 知らない人から物貰うなって俺には散々言うくせに。 ｢……へえ。寝ゲロはなさそうね。安心した。｣ ぷるぷるの唇に指を添えると、赤み帯びて押し返す。 ｢――――――っ、｣ 物言わぬ唇が訴えてきた。 二郎と友達だった頃の俺ってどうしていたんだろう。 思い出は愛しさが増えると零れてゆく。 何も考えて無かったのに、今は二郎が好きすぎて何も考えて無い。 つまりは今も昔も何も考えてないのだが…… ｢あ……あのさあ！｣ 途中で二郎がうろたえた。 まだ、靴下に指突っ込んだだけなのだが……。 ｢なにさあ。｣ いいとこでストップされるのはいつものことだが、今日は、今日こそは二人きりの空間、邪魔は無い。 つまり、譲れないのだ。 ｢……背広に開襟シャツは狡い。｣ 二郎が、自ら抱き着いてきた……感っ動・！ 熱い吐息が重なり絖る舌が絡まり合う。 長い睫毛がひくひく瞬く様は俺まで脳にまで達する幸福だ。 やはり、より近くに居ると感応し合ったりするのだろうか。 俺達は感応し合うのか、几帳面に衣服をハンガーに背広を掛けてから続きを始める。 ｢七生は知らないだろうけど……七生は虐めたくなるんだ。そういう空気を醸し出してる。ついでに言うと七生の横に居た楠木家の親族もドＳで有名だったし、心配で仕方ないんだよ。｣ ｢それはお互い様だろ。二郎がどんなに、どんなに、心配で愛おしいか……！むしろ、同じテーブルの奴らの方が危なかったろ！正直、警察呼びたかったんだからな！｣ 心配じゃない時が無いくらいに心配だ。 抱きしめ合いながら、不安をぶちまける。 裸になると開放的になるのは本当のようだ。 ｢そんなにかな。｣ ｢今、注目の哀愁系若手俳優だし？それだけ何か惹かれるものがあるんじゃないか？｣ 哀愁系っていうのは二郎が死に隣接した役や儚い役を演じることに定評があるからだ。 ｢……七生に口説かれると蕩けそうになる。｣ いや、｢そう｣というより、耳まで真っ赤にしてほぼ蕩けてる。 前へ |次へ |
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