《MUMEI》
ささやかすぎる贈り物@
「おじさん、誰?」
 十二月二十四日の深更。尿意で目を覚ました健史が目にしたのは赤い服を着こみ、白い髭を蓄えた老人だった。
 老人はまさか健史が目覚めるとは思わなかったのだろう、あうっ、おうっ、などと言葉を詰まらせた。それでもすぐさま平静を取り戻したらしく、なんとかにこやかな笑顔を作った。
「メリークリスマス。私はサ……」
「まさかサンタクロースなんて下手な誤魔化し使わないよね。今時そんな子供騙し、幼児にすら通用しないよ」
 健史の突っ込みに老人は見事に固まった。
「おじさん、泥棒だよね」
 追い討ちぎみにかけられた言葉に老人の笑顔は完全に引きつった。
 老人のそんな反応を見た健史は、ポケットから携帯電話を取り出す。そして寝呆け眼で二三の操作をした後、それを耳元に当てた。
「あ、もしもし、警察ですか。家にサンタのコスプレをした変なおじさんがいるんですが」
「ちょっ、ちょっと待って!」
 老人は機敏な動きで健史から電話を取り上げ、あわてて通話を切る。
「警察は駄目だよ、警察は」
「泥棒を見付けたら通報するのが道理でしょ」
 健史はけだるげな様子で固定電話に近付いた。
「勘弁して下さい」
 そこで回り込んできた老人に土下座された。
「……どいてくれない」
「どいたら通報するでしょ、君」
「するに決まってるじゃん」
「お許し下さい」
 老人は床に頭突きをしながら、さらに頭を深く下げる。健史は大仰に溜め息をついて、老人を見下ろした。
「警察に突き出されるのが嫌ならなんで泥棒になったわけ?」
「はい、すみません。お金がなくてですね。食べ物にも困る始末で」
「仕事は?」
「この不景気で……」
「いい年してそんな格好までして、なに考えてるんだよ」
「本当にお恥ずかしい」
 またもや盛大な溜め息を吐いた後、健史は老人から離れ、冷蔵庫から何かを取り出し、それを持ってきた。
「食べなよ。お金はあげれないけど、これくらいなら」
 顔を上げた老人が目にしたのは、一切れ分だけなくなっているホールケーキだった。
「これ、クリスマスケーキ?」
「そう、それの残り。ウチ両親が共働きだから僕しか食べないんだ。始めから買わなければいいのに」
 健史は口を尖らせながらケーキを見つめた後、視線を老人に移した。
「で、いるの? いらないの? どっち」
「あ、いただきます」
 老人はケーキの乗った皿を受け取り、それと健史の顔とを交互に見た。
「あの……一緒にどうです?」

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