《MUMEI》
端末
翌日。

 今日は土曜日で学校は休みだ。
タイキは週一度の買い出しのため、昼前に家を出た。

 いつも行くスーパーへ行く途中、やはりあの公園を通ってしまう。
視線は自然とベンチに向いていた。
「うわっ。今日もいるよ」
半ば呆れ口調でタイキは呟いた。
 彼女は小さな端末を開いて何やら作業中のようだ。

「よう」
声をかけると、彼女はめんどくさそうに顔を一瞬あげると、すぐに端末に視線を戻した。
「あんた、何なの?毎日現れてさ。ストーカー?」
「んなわけあるか!たまたま通り掛かったら、いつもおまえがいるんだろ!」
「おまえって言うな。ていうか、今、忙しいの。邪魔しないでくれる?」
タイキは彼女の手元を見た。
信じられないほどの超高速でキーが叩かれている。
この位置からでは、そのモニターが見えないので何をしているのかわからない。

 よく見ると、彼女の膝に乗った端末は既製品の物ではないようだ。
今まで見たこともないほど、小さく、そしてシンプルだ。
もしかして、オリジナルだろうか。
タイキの周りでも、既製品の端末を分解して改造するのが流行っている。

彼女はなかなかセンスがいい。
かなりの腕とみた。

 タイキは隣に座りながら、ひたすらキーを叩き続ける彼女を見つめた。

話しかけても、大丈夫だろうか。

迷っていると、彼女は横目でこちらを見てきた。
「なに?」
「いや、その端末って、改造してんの?」
「してない」
「え、じゃあ、どこのやつ?ひょっとして発売前の最新版とか?」
 タイキが興奮気味にそう言うと、彼女は馬鹿にするように鼻で笑った。
「こんな小型の端末、そこらの会社に作れるわけないじゃない」
「だよな。じゃあ……?」
「わたしが作ったの」
「……っえ!!マジで?基板も?」
「そう。最初から」

ありえない。
絶対にありえない。
個人が、しかも自分と同じくらいの歳の女が端末を作り上げるなんて。

「ま、別に信じなくてもいいけどね。どうでもいいし」
 彼女はそう言うと、作業が終わったのか、キーボードから手を離し、端末を閉じた。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫