《MUMEI》 逆鱗逆鱗。(げきりん) 古代より空想の生き物 「龍」。 普段は温厚な生き物だが、一枚だけ逆のウロコがあり、 それに触れられると激怒する という言い伝えからきた言葉。 今だにはっきりと覚えている 陽も暮れかけたマンションの一室 ヒロの右手には美しく、 それでいてどこか妖艶な光を放ち続ける 長ドスが握られていた。 それが自分の人生をどう左右していくか まだハタチのヒロにはそんな面倒な事を考える脳みそは持ち合わせてはいなかった。 ただ仲間と自分のプライドを守る為 毎日をがむしゃらに走り続け まるで狂犬のように回りに噛み付く… 「ヒロは狂ってるから」 なんとでも言えばいい。 最高の褒め言葉だ。 「ヒロについて行くよ」 守る価値もない人間 頭を下げながら、真面目な顔で、台本通りの台詞を吐く奴等。 金か力という欲の臭いを嗅ぎ付け 旨味だけを味わおうとする、弱者かハイエナ。 ただ頭でわかっていても、 それを寂しく思ってしまう弱い自分がいる。 言葉にすると、その程度の自分をつい認めてしまいそうで、 いつも胸にしまっていた。 きっとこの先も、口にする事はない。 「ヒロを潰す」 聞くだけで武者震いは止まらなかった。 文句があるならかかってくればいい。 「面倒だからその前に俺から行ってやるよ」 血眼になって夜通し探し続け、 全員ぶっ飛ばし、 そのまま車で拉致。 その後は、決まって糞小便を漏らすまで、 二度と俺とは目も合わせられないように締め上げてきた。 相手の人数は関係ない。 数ならいくらでも集まる 相手が集団で呑気に歩いていれば、 一人づつ車ではね飛ばし終了だ。 外人に盗んでこさせた車だ 相手がどうなろうと関係ない その後はさっきまでの勝利の余韻に浸りながら みんなで酒を飲みかわし朝まで馬鹿騒ぎをする… 何も言わなくても自然と一緒にいれる。 たとえ離れていても、時には酒を飲みながら馬鹿やって、立場も世界も関係なく付き合っていける 欲しかったのは、そんな関係。 いつまでもおもしろおかしく一緒にいたかっただけ。 ただそれだけの事。 でも回りや社会、上の人間はそれを認めない。 だからヒロは意地を張った。 自分の理想郷を手に入れる為、意地を張り続けた。 その意地が狂気と後悔に変わるまで、 時間はかからなかった。 「俺だけは許される」 なんの根拠もない慢心と若気の至りと共に まるでそれが辺り前かの様な毎日を それなりに満喫し、 ただ十代の惰性で過ごしていた ハタチの長い冬だった… 前へ |次へ |
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