《MUMEI》
嫌いなんだ
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【嫌いなんだ】





―――これは子供の頃のはなし


===========







俺と兄は、なかなか名が通っている旅館の息子として生まれた。



兄の名前が菜月で俺の名前が美咲




女みたいな名前が俺は小さい頃から嫌いだった。

もっとカッコイイ名前あったんじゃないの!?とか、子供ながらに思ったりもした。









菜月は凄く頭がよく、温和な人間だった。


逆に俺は菜月をさかさまにしたような真逆の性格だった。




何をするにも無頓着で無気力


旅館も勉強も周りもどうでもよかった



唯一ハマッたのが寺戸屋の団子。







そんな俺がちょうど10歳になった年、ある小さな出来事が起きた……。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


「今日からお母さんと一緒に働いてもらうことになった恋芽ちゃんです。菜月坊っちゃん、美咲坊っちゃん、仲良くしてあげて下さいまし」


トメの紹介で知り合った恋芽と菜月と美咲。





「よろしくお願いしますッ」




恋芽は勢いよくペコッと頭を下げる






「こちらこそ」





そう言って握手を求める菜月。

アイツは嬉しそうに菜月の差し出した手を握った。



俺はなんだか恥ずかしくて、トメに挨拶しろと言われたがそっぽを向いた



それでも笑顔を見せるアイツが嫌いだった……。







毎日毎日母親の傍で楽しそうに働くアイツを目にした


仕事して疲れるだけなのに、何がそんなに楽しいのか………


一週間経ったある日、池のほとりにしゃがんでいるアイツを見つけたので聞くことにした






「……おぃ」

「!?」





急に声がして驚いたのかアイツは目を丸くして振り向いた。






「何?」

「アンタさ、なんでいっつもニコニコしてるわけ?何が楽しいの?」





そうするとキョトンとした顔をして、






「じゃあ君は何でそんな楽しくなさそうな顔ばっかするの?」

「は?」

「あたしは楽しいよ?ワイワイ賑やかで、お母さんと一緒にいれて、みんなと笑えて。あたしはここが大好きなの!」

「……………馬鹿みたい」

「あはは、よく言われる。ノー天気だって!でもねでもね、どんなに裕福な人だってどんなに綺麗な人だって人生はみぃ―んな一度っきり!だったら誰よりも笑っていたほうがお得じゃない?……ってお母さんが言ってたの。だからあたしは誰よりもたくさん笑うんだ―♪」

「!!」









そう言って春を待ってた花みたいに笑うから


俺は一瞬で好きになってしまった。





温かくて温かくて
ひだまりみたいだった。




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