《MUMEI》
東口
「そういえばさ……」
来た道を戻りながら、ユキナは思い出したように口を開いた。
「由井さん、なんであそこに、わたしたちがいるのわかったんだろ?」
「ああ。あの倉庫の場所、教えてくれたのは由井だから」
「へえ、そうなんだ」
納得したように、ユキナは頷いた。

そう。
前にふざけながら、一度忍び込んでみようとか言っていた。
つい最近の事のはずなのに、もう遠い昔のことのようだ。
「ユウゴ?」
「ああ、なんでもない」
首を振りながら、ユウゴは言った。

 広場には相変わらず、人の気配はない。
東口の通路へと広場を横切っていると、なぜかユキナが立ち止まった。
「どうした?」
「ん、いや。別に?」
そう言いながらも、何かを窺うように、彼女は周りを見渡している。
「どうしたんだよ?何かいるか?」
つられて、ユウゴも周りを見渡す。

 コーコーと言う空気の流れる音、そして電灯が点滅する音以外、何も聞こえない。
「うん。なんでもない。行こう」
「……ああ」
頷きながら、ユウゴは改札の向こうを見た。
向こうはさらに真っ暗だ。
何も見えない。
もちろん、誰かいる気配もない。
ユウゴは首を傾げながら歩き出した。


 東口の階段近くにロッカーはあった。
しかし、目的の鍵に合うロッカーはない。
「あー、やっぱ西口か」
頭を掻きながら、ユウゴは言った。
「あそこ、通れるかな?」
「無理だな。いったん出てから、回るか」
「そうだね」
ユキナも頷き、二人は東口からそのまま外へ出た。
そして、大きく迂回して西口へと向かう。


「……これは、また」
「ずいぶん、派手に……」
ユウゴの声にユキナが続く。
 いったい何があったのか、西口への入口は、それは見事に潰れていたのだった。

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