《MUMEI》 逆鱗2夢の中のヒロはとても弱い。 いくら相手を殴ろうとしても、全く当てる事ができない。 自分がスローで動き、 それがなんとなく夢の中だという事に気づく時もある。 夢の中での醜態が、 時間と共に薄れていき、 思い出すのも難しくなる。 そんな朝は、決まって体を鍛えてきた。 悔しさと不安を打ち消す為に、 いつもより追い込んだ。 ヒロの携帯が、まるで何かの警告音のように慌ただしく鳴り響いた。 「誰だよ、こんな時間から」 思わず舌打ちが出てしまう。 悪いクセとわかっていても、自分が集中している時に割って入られるとムカついた。 とりあえず電話を見ると、着信相手は彼女の真由美だった。 面倒だからシカトする。 しかしこの女にも出るまで鳴らし続けるという悪いクセがある… ― 腕立てはすでに300回を超えていた。 それを追いかけるように、呼び出しも100回は鳴っている いつまで鳴らすのかという、好奇心と恐怖。 「とりあえず出てみるか」 根負けしたヒロは携帯の通話ボタンを仕方なしに押した 「もしもーし」着信音よりもデカい声が向こうから聞こえてくる 「なんだよ」 「今何してんの?」さっきよりもうるさい声が反ってきた。 「声がでかいんだよ」 「そんな事より、暇なら今から遊ぼうよ」 ヒロの忠告を軽く聞き流し、なぜか真由美は一人楽しそうだ。 「わかった。後でかけ直すよ。」 「そう言ってかかってきた事ないから。」 「今忙しいから、後でな」 「絶対、嘘!」 確かにかけ直す気はない。 だが嘘もついていない。 忙しいのは事実だろ? と自分に言い聞かせながら 「筋トレしてるから。それにまだ寝起きだし。」 分りやすく説明したつもりだった。 「じゃあ暇でしょ!この前のゲーセンに友達といるから30分後ね」 いつもこうだ。2歳年下の真由美は「ヒロはいつでも暇してる」と勝手に思い込み、自由に予定を決めてくる。 「分った、分った!じゃあな」 返事も聞かず電話を切り、携帯をベッドに放り投げた。 さっきまでの大量の汗はとっくに渇いていて、少し肌寒いくらいだ。 「あと30分後か…」 とりあえずヒロは腕立ての続きを始める事にした。 前へ |次へ |
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