《MUMEI》

「汚いどぶ川で見付かったんだよな。」

下車し、だらだら歩く。


「あの川ね、夜に死骸を流しに行ってたんだ。」


「あの時もか?」


「箱に石を詰めて蓋をして、沈めた。」

あゆまには当時、動物を飼っては自ら殺めるという行為を繰り返していた。
愛おしいものに手をかけるという心理は俺も深く理解している。


「そうか。」


「そう。」

互いに口数が減ってゆく。


(……倉庫だ……。)
俺が半殺しになり、あゆまに刺された場所。


「もうすぐアパートだな。」

あゆまの倉庫への意識を逸らすべく、口を開く

しかし、アパートは取り壊されて跡形も無くなっていた。


「……なんだか、呆気ないね。あの頃、ぼくには此処が全てだったんだ。」

あゆまはまだ、此処に立っていることに抵抗があるようだ。


「あゆま、お使いして来て。ミネラルウォーターな。」

あゆまに小銭を渡した。
俺は後ろ姿を見送りながら、取り壊されたアパートの跡を一周してみる。

実につまらなかった。




「……あの」

不意に、一人の男が現れた、俺はそいつの動向を窺っているとまた何か呟き始めた。

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