《MUMEI》

「あら、山男くんじゃない。ひさしぶり?」

「…ご無沙汰してます。先生もお変わりないようで…」


肩にぎりぎりつかない程度のまっすぐな髪をさらっとかき上げる養護教諭の生田先生は、「山男くん」と同僚の教師に向かって言うには些か疑問を持つような呼び名で呼びかける。

多少2人の会話に疑問を持った雅俊は怪訝な顔で2人の事を見比べる。

「で?今日はどんなご用?後ろにいるのは、1年の明智くんよね?」

「あ、失礼します…?」

雅俊が保健室内に入ると山男はドアを閉めてから雅俊を追い越して室内を見渡しながら生田先生の前に歩み寄る。

「今、誰もいませんよね?」

「えぇ、今のところここには私たち3人しかいないけど?何?聞かれたくない話?」

「まぁ、ぶっちゃけ。」

ふむ、と頷いた生田先生は『カウンセリング中』と書かれた札を持ってドアの外に掛けて戻ってくる。

「さ、これで急患以外は入ってこないわ。で?何して欲しいの?」

「取りあえず、こいつの背中見てやってください。」

そう言って、入り口近くに立っていた雅俊を呼び寄せる。

「?…なに?巻き込んだの?」

「いや…多分、俺が巻き込まれたって言った方が意味は正しいかな、と。雅俊のせいじゃないですけど。」

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