《MUMEI》

雅俊を診察用の椅子に座らせて、ジャージを脱がせた生田先生は、治療をしながら、雅俊の右肩に出ている文様を見てため息をつく。

「山男くんが学生の頃にも、黙って怪我の面倒みてあげてたけど…教師として戻ってきて、一回挨拶しに来たっきり10ヶ月音沙汰無かったのよ?酷いと思わない?」

「そんな、生徒でも無いのにお世話になる方がまずいでしょう?」

「お世話にならなくても、暇な時顔くらい出してくれても良いじゃない。」



「先生…生田先生は、知ってるんですね…?」

「私だけね。」

ふふ。っと柔らかく笑う生田先生はそれ以上を語ろうとはしなかった。

「雅俊くんも、なのよね?なんだっけ?スレシル?」

「はい。何かあったら、…無いのが望ましいんですけど、俺たちの時みたいに診てやって欲しいんですけど。」

「まぁ、仕方ないわね。あのとき、私だけ記憶残しておいて良かったでしょ?」

「?」

「想定外ですけど。」

「村上先生が、少し思い出しかけているみたいだったけど?善彦くんはどうしてるの?」

「??」

「あぁ、それで村上先生、俺の所に来たんですね。善彦には後で聞いてみます。多分あいつの不調とかじゃなくて、雅俊の力に影響されたんだと思うんですけどね。」

「ふーん。よく分からないけど。」

「???ちょ!先生?」


雅俊が声を上げたところで昼休み終了の予鈴がなる。ふと会話が途切れ、3人はチャイムが鳴り終わるまで静かに待つ。


「…強打による内出血はあるみたいだけど、全体的にぶつけたのが幸いして、酷いところはないみたいだから、そのうち痛みも引くわ。若いんだから大丈夫でしょう。」

「ジャージについて聞かれたら、俺の所でコーヒーこぼしたとか説明しておけ。話は合わせるから。ほら、授業遅れるぞ。」

「え、えぇ!?」


よしよしっ。と声を掛けながら生田先生が背中の治療が終わったのか、手を叩く。それに合わせるかのように山男は持っていたジャージを雅俊に渡して保健室の扉へ誘導する。

雅俊は不満そうな声を上げつつ、保健室の外に追いやられた。


「また、放課後、準備室に来てくれ。」


扉の方を振り向くと、山男がもう一度保健室の中へ入っていき、扉が閉められた。

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