《MUMEI》 . 100メートルを全力疾走した直後、ゴール近くのフィールド内でへばっていたわたしに、ヒロコがタオルを片手に明るく声をかけてきた。 「お疲れ!!」 タオルを差し出しながら、明るい笑顔を浮かべる彼女を、わたしはチラリと見遣る。 「…タイムは?」 差し出されたタオルを受け取りつつ、息も絶え絶えにそう尋ねると、ヒロコは、えーっとねぇ…と呟き、首から下げていたストップウォッチを手にとって眺め見た。 「…12秒4!自己ベスト更新ならず!」 惜しいね、と清々しい声で言い、白い歯を見せて笑う。 自分のタイムを聞いて、愕然とした。ダメだ、これじゃ勝てない…はっきり言って、中学生レベルだ。 わたしは悔しくなって、あ゙〜ッ!と、変な声で唸りながら、タオルに顔をうずめて、その場にゴロリと転がった。ふんわりと石鹸の良い香りが鼻孔をくすぐる。 「今日は絶対、イケると思ったのにーッ!!」 仰向けになり、目の前に広がるきれいな青空に八つ当たりするように、大きな声で怒鳴った。その様子を傍らで見ていたヒロコはケラケラと笑う。 . 前へ |次へ |
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