《MUMEI》

.


「…ちょっと疲れただけ。何でもないの」

わたしの返事に今度はヒロコが首を傾げる。

「あれくらいの練習量で?珍しいね。どこか具合悪いの?」

捲し立て始めたヒロコに、勇治はふざけるように茶々を入れる。

「北条は女子部のホープなんだから、ちゃんと管理しろよなー。オマエ、仮にもマネージャーだろ?」

勇治の言葉にヒロコは、仮にもってなによぉ!とスネたように唇を尖らせると、それを見た勇治は、ヘンな顔ー!!と言って、お腹を抱えてゲラゲラ笑った。


相変わらず楽しそうなふたり。


完全に蚊帳の外なわたし。



―――惨めで仕方なかった。



わたしは目を軽く伏せて、ふたりを視界から追いやり、それじゃ…と素っ気なくお別れをして、その場から逃げるように立ち去った。

遠くから、ヒロコの甲高い笑い声が響いてきた。



******



北条 雪(ホウジョウ ユキ)。


17歳、高校3年生。
女子陸上部所属。



他のヒトよりちょっとだけ足が速いってところ以外は、

どこにでもいる、いたって平凡な女子高生。



―――そして今、



彼女持ちの男の子に、片想いしている…。



*****

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