《MUMEI》
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「お前は、部屋に入って来てすぐ俺の…」
秀一が俺の手を放し、目線が足下を不規則に走る
「…俺の、相手役の藍原さんを殴った。
それからスタッフ、監督…皆を。スタッフと監督はそのあと…逮捕された」
「…!」
スタッフたちは暴力団関係者だったらしい…お前の傷は、スタッフの一人が持ってたナイフでやられたんだ――秀一は息をはき出すように続けた
「………」
覚えて、ない。
「お前を必死に押さえ込みながら、隆之が言ってた。佑二は、お前にこんな仕事辞めさせたいんだ…って」
秀一の目が再び俺を捉える
「俺に傷ついて欲しくないんだ…って」
「………」
「…でも…………………………………迷惑だ…」
「………?」
俺を見る秀一の目には
僅かに
「な…!」
涙。
「どうしたんだよ…」
「俺の家には」
秀一が腿の上に手をおいて強く握った
「…金が必要なんだよ」
「…金」
「暴力団が関係してよーが、俺が傷つこーが…。あれをしてれば、十分な金が、手に…入ったんだ…!」
俺は左手を俯く秀一の背中から後頭に回して、
秀一の瞳に涙と戸惑いが浮かんでいることを確認しながら
俺の胸の上に突っ伏させた。
シーツと病院服越しにでも、俺のドキドキは伝わったかもしれない
普段は秀一が視界にいるだけで、俺はドキドキなのに。
腹の傷が、ちょっと痛んだ
秀一は左を向いて、俺に顔を見られないようにして言った
「…金の為なら俺なんかどうでもいい、って思ってた」
俺は言葉を紡ぐ秀一の髪を撫でた
「…金になるなら…体なんて、って…思うように頑張ったんだ」
髪をなでる俺の手に
ひくん、と秀一の喉の奥がなったような、振動が伝わって来た
「助けられたりしたら……揺るいじまうじゃねーか…」
ずっと、微笑みに封印していた
感情が、
想い、が。
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