《MUMEI》 唇が熱い。 我に返り身を起こす。 樹は高ぶる動悸を感じると同時に後悔の渦へ飲み込まれた。アラタの指に視線を落とす。 大塚幸太郎もこの手を握ったのだろう。所有したいと切に願い呆気なく命を奪うことで手に入れたのだ。樹は父を自分自身を疎ましく思った。 罪悪感と快楽が混ざり合う。斎藤アラタの憎い仇である自分が彼に好意を寄せた事実が何より気に入らなかった。 アラタは森の中でアヅサとはぐれたときいつも木々の温もりに触れていた。糸を手繰り寄せるように樹木の外皮を探り出し、迷いを一掃する。 木目に接吻させると露が湿る。 爽やかな濡れる接吻。 そんな懐かしい香りを感じていた。 前へ |次へ |
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