《MUMEI》
暗殺者は突然に
.


―――わたしの自宅は、学校からわりと近くにある。


歩いて20分程のところにある、緩やかな丘の上一面に広がる閑静な住宅街。その一角にあるマンションに、わたしは家族と共に住んでいる。


家まで続く、なだらかな上り坂の道は、周りが住宅街であるにも関わらず、街灯は少ない。薄闇にぼんやりと輝くそれをじっと眺めながら帰路を急いだ。

夕暮れ時の帰り道は薄暗く、どこか物悲しい。人通りもほとんどないから、そう思うのだろうか。


………それとも、

ヒロコと勇治の仲の良い姿を目の当たりにしてしまったからなのか。


そんな虚しいことを考えながら、わたしはひとり、通りを歩いていた。





―――そして、

それは、突然だった。





不意に、一台の黒いバイクが、正面からこちらに向かって走ってくるのが見えた。低い唸り声のようなエンジン音が、闇の中で不気味に反響する。


狭い道のため、わたしはゆっくり道路の端に寄り、バイクが通りすぎるのを見届けようと、歩く速度を少しだけ緩めた。

バイクはぐんぐんとスピードをあげ、その黒い車体を闇夜に浮かび上がらせながら、わたしの目前に迫り、鋭いヘッドライトに思わず目を細めた瞬間、



―――キキーッ!!



急にブレーキをかけ、わたしが立っているすぐ傍で停止した。明るすぎるライトに照らされて、わたしは驚き、2、3歩後退る。

バイクは、ドッドッドッドッ…と鼓動のような音を響かせたまま、動き出すこともなく悠然とそこにいる。



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