《MUMEI》

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バイクに跨がっているのは、黒い皮ジャンに黒いデニムを着た人。フルフェイスのヘルメットを被っているから、髪形も顔も見えないけれど、その背格好から、男だと何となくわかる。

男はスモークがかかったフェイスガード越しに、わたしの様子を伺っているようだ。


………なに、この人?


明らかに怪しい。あまり関わらない方が良さそうだ。

不審に思ったわたしは、男から顔を隠すように俯いて、バイクを迂回し通り過ぎようとした。幸い足には自信がある。


………いざとなったら、走って逃げればいいし。


そんなことを考えて、男の横に並んだその時だった。



―――ガシッ!



突然、腕を掴まれた。あまりの力の強さに、わたしはそこから一歩も動けなくなる。

びっくりして顔をあげると、男はいつの間にかバイクから降りてわたしの腕をしっかり握りしめていた。思わず背筋が寒くなる。

わたしが何か言うより早く、

男が先に口を開いた。


「…京極の娘だな?」


………え?

『キョウゴク』?


聞き慣れない言葉に、わたしはただ眉をひそめる。男はわたしの表情に気づかず、続けた。

「…悪く思うな。自分の父親を恨め」

聞き取りにくい低い声で、謎めいたことを言って懐からゆっくり取り出したのは、


………!!


暗い闇の中でも、鈍い光を放つそれは、見紛えることもないナイフだった。



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