《MUMEI》

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「は、離してッ!!」


咄嗟に口から飛び出した声は恐怖で裏返った。銀色の怪しい切っ先の輝きから目を離せずに、わたしは男の腕から逃れようともがいた。

しかし、男の馬鹿力には到底敵わず、逆に身体ごと、ズルズルと引き寄せられてしまう。

騒ぐな!と、男は怖い声で言った。

「安心しろ。暴れなければ、一瞬で終わる…」

ヘルメット越しにくぐもった声でそう呟くと、腕の中にいるわたしの首に、ナイフを突きつけた。ひんやりとした無機質な冷たさが肌に伝わって、わたしは足がすくんだ。



………殺される!



目前に迫った恐怖と次の瞬間やって来るだろう最期の痛みに、わたしは固く目を瞑った。



しかし…。



「はーい、そこまで〜!」



どこか間の抜けた男の子の声が、通りに響き渡った。


あまりにも場違いなその呑気な抑揚に、わたしと男は弾かれたように顔をあげる。



―――そして、目を見張った。



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