《MUMEI》

.


ここは崖道なので、少年の背後には荒々しい岩肌がそびえ立ち、彼に逃げ道はない。

けれど、絶対的な身の危険が迫っているというのにその少年といえば、驚くことも怯むこともせず、真正面から突っ込んでくる男を、じ…っと見据えていた。



唇に、仄かな笑みを浮かべて。



「消えろッ!!」


少年の間合いに駆け込むと同時に、男は凄みのある声で叫び、手にしていたナイフを高く振りかざす。ギラッと冷たい輝きが閃いた。


………危ない!


惨劇から目を背けようと、両手で顔を覆おうとした、


瞬間、


タイミングを計ったように、少年は崖に沿ってすごいスピードで駆け出した。男はその動きに瞬時に反応し、少年を追いかける。

「逃げんな、コラァ!」

ナイフを振り回しながら、すぐ背後まで男が迫った時、

突然少年は地面を踏みきり、崖に向かって飛び上がると、岩肌を片足で蹴ってその反動を利用して、男の腕を蹴り飛ばした。握りしめていたナイフはキラキラと闇夜に煌めいて、どこか遠くへ飛んでいった。

男は低い唸り声をあげながらよろめく。それを見逃さず、少年は地面に着地するとすかさず右足を高く振り上げ、男の脳天目掛けて振り下ろした。


―――…ドサッ!


少年の踵落としが見事に決まり、男は声をあげる暇もなく、だらしなく地面に転がって動かなくなった。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫