《MUMEI》

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―――不意に、夜の静寂が蘇る。



黒づくめの男はアスファルトに突っ伏したまま、ピクリとも動かない。わたしは恐る恐る男の様子を伺う。周りが暗くてよく判別出来ないが、男が被っていたヘルメットに小さな亀裂が入っているようだった。


………まさか、あの一撃で?


少年が放った蹴り技の威力を目の当たりにして、思わずゾッとする。あどけない風貌だが、そのパワーはハンパないみたいだ。

わたしはゆっくり視線を流し、少し離れたところにいる例の少年を見遣った。


先ほどの戦闘でスーツが汚れてしまったのか、少年はスラックスの裾をはたいていた。パンパンッという軽快な音だけが辺りに響いている。

その間、倒れ込んだ男の様子をただの一度も見ようとしないところから、少年はもう既にその男に対して興味を抱いていないことがわかる。

わたしはそんな少年の姿を見つめて、先ほど自分の目の前で繰り広げられた騒動を思い出した。


あの軽やかな身のこなし。つい見とれてしまうほど見事な連続の足技。凶器や危険を恐れないばかりか、逆に楽しんでいるかのような嬉々とした表情…。



………喧嘩馴れしてるとか、そんな次元じゃない。


この人、


一体何者?



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