《MUMEI》 . 考え込むわたしをよそに、しばらくそうやってスーツの埃をはたいていた少年が、急に、あ!と素頓狂な声をあげた。張りのある声にわたしは驚き、ビクリと肩を揺らす。 少年はスラックスの股の部分を覗き込むようにしながら、チッと舌打ちし、 「やっべー!パンツ裂けてる!!」 こりゃオッサンにドヤされるな…とため息混じりにぼやいた。 わたしが少年から目を離せず、じっと見つめていると、 その視線にようやく気がついたのか、彼が不意にこちらへ顔を向けた。 そして目を見開いて、再び、あ!と声をあげる。 「すっかりアンタのこと忘れてた!」 それから、わりーわりー!と豪快に笑う。もちろん悪びれた様子など1ミリも垣間見れない。 「どっかケガしてない?」 そう尋ねながら、少年はわたしの方へ歩み寄った。わたしは警戒しつつも、素直に首を横に振る。その様子を見て彼は、良かった!と、ニコッと人懐っこく笑って見せた。 わたしが、その彼の笑顔を真正面から見つめた時、 なぜか彼は笑顔を消し、少し目を見張った。 驚いたような顔をして重なった視線を外そうとしない。 ………なに? 少年の真っ直ぐ過ぎる視線に戸惑ったわたしは、躊躇いがちに口を開いた。 「…あなたは?」 尋ねる声が震えてしまう。見知らぬ男に訳もわからず襲われて、理不尽に命を奪われそうになったことを思い出すと、冷静ではいられなかった。 「…なんなの?あの男、どうしてわたしを…」 声を出すうち、だんだん感情が高ぶってきて、涙が溢れそうになる。 . 前へ |次へ |
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