《MUMEI》

アヅサが必ず探してくれたので、アラタは安心して森の中を歩いていられる。

なおえ も探してくれる。




見つけるとアヅサは優しく接吻してくれた。舌が適温のチョコレートのように滑らかに流動する。
そうすることで互いに存在を確かめ合う。



しかし、今日のアヅサは唇を触れただけだった。ぴりぴりと痛みさえ感じる。
いつもの過去のフラッシュバックだ。アヅサの首が消えていくに違いない。


その前に目覚める術はもう知っている。遠くの自分に似た人形に飛び込めばいい。アラタの視線は白い保健室の天井に戻っていた。










「まだ居たの」
窓際に向こう見ずな樹が腰掛けていた。


樹は目を合わせようとしない。
「 なおえ って誰。」


アラタは頭に血が上り、絡んでいる指を突っぱねた。
「言う必要は無い!」


「ずっと泣いていた」


「そんなはずない、話すな!耳が腐る。話すならアヅサの首を何処に隠したかを言え!」


「分からない」


「嘘つけ、見たんだ
紅い塊を運んでいた影を、現場に居たなら知っているだろ!吐け!」
アラタの半狂乱な声が樹を刺す。


「……分からない。その日の記憶は抜け落ちてる。」
落ち着いた会話をしながら樹はこんなに男性を抱きしめたいと思ったのは後にも先にも今だけだろうと唇をなぞり、邪まな考えを馳せていた。

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