《MUMEI》

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わたしは不審に思って、少年の襟首から手を離し、少し後退った。同時に少年が、苦しかったー!と、わざとらしく咳き込む。

「お前、いい度胸だな。俺を締め上げるなんて」

少し不機嫌そうに言った少年を無視して、わたしは突然現れた無精髭の男を睨み付ける。

「…あなたは誰?」

刺々しいわたしの声に、無精髭の男は笑った。

「そう警戒すんなよ、嬢ちゃん。俺は怪しいモンじゃないから」



…。

……。

………充分怪しいんですけど。



何も答えず、ただ相手の様子を伺っていると、男は周りを見回す。

「嬢ちゃんには色々と話さなきゃなんないことがあるんだが、ここはちょっと場所が悪い…夜も遅いしな」

独り言のように呟いてから、彼は車の方へ振り返った。

「八代!降りてこい」

声をかけると、車のドアが勢いよく開いた。中から出てきたのは、やっぱり彼らと同じスーツ姿で、ナイーブそうな顔をした男の子だった。

無精髭の男はその男の子に真面目な声で言う。

「俺とあいつは今からターゲットを連れて屋敷へ向かう。お前はあの黒づくめを確保して屋敷に連れてこい。すぐに応援を手配しろ」

男の子はゆっくり頷き、了解、と手短に答えて、携帯でどこかへ連絡をしながら、いまだ気絶している黒づくめの男の方へ近寄っていった。



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