《MUMEI》
立派なお屋敷
.


―――一気に色んなことが起こりすぎて、すっかり気が動転していたから、わたしを乗せた車がどの道を走っていたのか、まったく覚えていない…。


気がつけば車は、見たこともないような立派な日本家屋の前に停まっていた。

「すごーい!時代劇に出てきそう…」

車の窓越しに、目の前にそびえ立つ屋敷の漆喰の瓦屋根を見上げて、わたしは感嘆の声を漏らす。

少年と無精髭の男はわたしの呟きを無視して、さっさとシートベルトを外し車の外に出た。わたしも慌ててベルトを外す。

すると、少年が当然のように後部座席のドアを開けてくれて、わたしに降りるように無言で促す。その姿はさながらお姫様に使える騎士のようだ。

「…あ、ありがと」

ドギマギしながらわたしがゆっくり車から降りると、無精髭の男の声が聞こえてきた。

「とりあえず、中に入るぞ。先方が待ってる」



…。

……。

………『先方』?



わたしはキョトンとして首を傾げた。

「誰のこと?」

傍にいた少年を見上げて尋ねると、彼は目を逸らし肩を竦めてみせた。

「お前が知りたがってた人だよ」

「え…?」

要領を得ない言い方をされ、すっかりハテナ顔のわたしをよそに、

「こっちだ、ついて来い。はぐれるなよ」

無精髭の男はそう声をかけると、さっさと門をくぐり、屋敷の中へと入っていってしまう。

少年は、りょーかーい!とのんびり答えてから、わたしを見、

「ホラ、行こうぜ」

そう言って躊躇うことなく手を取った。男の子と手をつないだことがないわたしは、ついドキッとしてしまう。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫