《MUMEI》
お屋敷潜入!!
.


―――その屋敷を一言で表すなら、とにかく『広い』、それだけに尽きる。



背の高い入り口の引き戸を開くと、そこには石造りの敷石が6畳くらい広がっていて、上がり口には松の絵が描かれた木製の衝立が置いてあった。
板の間はピカピカに掃除されていて、塵ひとつ見つからない。

自分の部屋よりもずっと広い玄関に、わたしはただ呆然としていた。

「す、すご…」

驚きすぎて言葉にならず、ぼんやりとそんなことを呟いていると、

「お帰りなさいませ!」

パタパタと、それこそ旅館とか料亭で働いている女中のような着物を着た人達が、お待ちしておりましたぁと、笑顔で迎え出た。

無精髭の男と少年は慣れているのか、戸惑う様子もなく靴を脱ぎ、玄関から上がった。女中達も自然な流れで、彼等の靴を手際よく片付ける。



………なに、これ!?

絶対フツーじゃないよ、こんなの!



不信感いっぱいのわたしは、まだ玄関から動けずにいる。傍には女中がひとり、ニコニコと感じの良い笑顔を浮かべたまま、黙って控えていた。

「…何してんだ?」

見かねた無精髭の男が、呆れたようにわたしに言う。既に先を歩いていた少年も振り返り、首を傾げた。

「早く上がれば?」

ふたりが催促したことに便乗したのか、さっきまで黙っていた女中が笑顔を崩さず、口を開く。

「お履き物はこちらでお預かり致します」

どうぞ、とやんわりと上がり口を指した。
引くに引けなくなったわたしは、渋々ローファーを脱ぎ、お邪魔します…と小さな声で断ってから玄関から上がった。



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