《MUMEI》

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無精髭の男はそれを確認してからため息をつき、こっちだ、と廊下の奥をさくさく進んで行ってしまう。

少年はとぼとぼ所在無さげに歩き始めたわたしを見て言った。

「この屋敷、相当広いからはぐれるなよ?」



………いっそのこと、はぐれて逃げ出したいんだけど。



心の中で呟いたつもりだったのだが、ついうっかり口から出ていたようだ。

「何?何か言った?」

尋ねられて、わたしは慌てて首を振る。

「う、ううん!?なんでもない!」

「…ふぅん。ま、それならそれで、別にいいけど」

素っ気なく答えると、彼はわたしを促し、屋敷の奥へと連れていった。



******



わたし達がやって来たのは、とても広い和室だった。

登り竜と虎が描かれた絢爛豪華な襖と、綺麗な雪見障子。中央には大きな黒檀のローテーブルと、4つの座椅子が。片隅にある床の間には繊細な墨絵の掛け軸と、赴きのある季節の花が美しく生けられ、飾られている。替えたばかりなのか、畳は汚れが一切なく、とても綺麗で、藺草の柔らかい匂いが立ち込めていた。



………高級旅館みたいな造りね。



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