《MUMEI》

.


無精髭の男は部屋に入るなり、奥の席にドカッと腰を下ろす。続いて少年はその向かいに座った。

それから少年はいまだ入り口で立ち尽くしているわたしを見上げる。

「そんなトコにいないで、こっち座れよ」

そうのんびり言って、自分の隣を指した。

わたしは何も答えず、言われるまま彼の隣に座る。

突如として、重苦しい沈黙が訪れた。

無精髭の男も少年も何も言葉を発することなく、天井を見上げたり、自分の手の平を眺めたり、時間をもて余しているようだった。



………お、落ち着かなーい!!



慣れないセレブな雰囲気と、ふたりのやる気のない様子に、わたしの緊張はピークに達しそうだった。

―――その時。


「すまない、お待たせしたな」


襖が開く音と男の人の声が聞こえ、わたしは弾かれたように顔を上げた。

部屋にやって来たのは、品の良さそうなおじさまだった。

ダークグレーのスーツを着込み、上品な柄のネクタイをキチンと締めた、男の人。

彼の姿を見た無精髭の男と少年は、素早くその場に立ち上がる。それを見てわたしもワンテンポ遅れて立ち上がった。

「つい今しがた、戻りました」

遅くなって申し訳ありません、と業務的な無精髭の男の報告に、その男の人は苦笑しながら、気にしないでくれ、と優しく声を掛ける。

「わたしも思いがけず会議が長引いてしまってね…お互い様だ」

感じ良く言いながら、彼はわたし達に座るよう促した。無精髭の男と少年がそれに応じたので、わたしも真似する。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫