《MUMEI》
逆鱗5
しばらくの間動く気すらおきなかった。


間違いなく20cm近くは積もっている。


「さてどうするか?」

ハッキリ言って面倒だった。


何か急用でも入ってくれればそれを口実に断れるのに、こんな時に限って何もおきない。


「参ったなぁ」 本音が自然と口から出てきた。

しかしいつまでもくよくよ考えても仕方がない。

後はなんとかなるだろう。

重い足取りで階段を降り、いつもの履き慣らした靴をはいた。


ドアを開け外に出ようとしたその時、突然携帯が鳴り出した。


見なくても確実に相手はわかっている。


ポケットから携帯を取り出し通話ボタンを押した。


「何も言うな!今から行くから待ってろ。」

真由美が小言を言う前にとにかく切りたかった。


だが反ってきた返事は意外なものだった…


「ヒロさん!待ってください。 絵美です!」

受話器の向こうからは悲鳴に近い叫び声が聞こえてきた。

絵美ちゃんといえば真由美の仲のいい友達で何度か会った事がある。


その絵美ちゃんが何故か真由美の携帯から俺にかけてきている。


何かあったな?


悪い予感がした。 しかも悪い予感というのは必ず当たる。


「真由美が元彼と偶然会っちゃって… 喧嘩になってそのまま外に連れて行かれて…」


元彼といえば確か暴力がひどくて大変だったと聞かされた記憶がある。
「あのしつこい奴か?」

「はい。」


「すぐ行くから入口にいろ。」


返事も聞かず電話を切った。


怒りと緊張感で胸の鼓動が早くなっているのがよくわかる。


絶対に許す事はない。

自分の中の法律。


それを破られた時、初めて何も見えなくなる。


いつもの喧嘩とは訳が違う。 今までのようにただ噛み付くのではなく、骨の髄まで噛み砕き

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