《MUMEI》 ユウゴは目を細めて男を睨む。 間違いない。実川だ。 彼は台に置かれたマイクのスイッチを確認すると、咳ばらいを一つして会場を見渡した。 「えー、お集まりの皆さま。本日はお忙しい中ありがとうございます。国民運動能力向上プロジェクト実行委員会の実川です」 会場はしんと静まり返り、拍手の一つもない。 ユウゴからしてみれば当然のことだが、実川本人は不満だったらしい。 一瞬、眉を不機嫌そうに寄せると、さきほどよりも少し低い声で話を続けた。 「まず、この国民運動能力向上プロジェクトについてですが……」 一体何を話すのだろうと思っていたが、やはりプロジェクトの成り立ち、それすることについての意味や効果などを話していくらしい。 もっともユウゴにとっては意味も効果もなにもない。 プロジェクトに参加することによって人を殺す感覚を覚え、近づく死の恐怖を感じ、自分が壊れていくことに気づき、平凡に生きられなくなる。 そんなプロジェクトでいったい何を得るというのだろう。 ユウゴは沸き上がる殺意を必死に押し殺しながら、実川の話を聞き流す。 周りの者に目を向けると、真剣に聞いている様子が見受けられる。 しかし、興味があって聞いているのではないだろう。 いつ、自分たちがそのプロジェクトに巻き込まれるのか、どうやったら逃れることができるのか、それを探るため必死に聞いているのだ。 それを知ってか知らずか、実川は話し続けている。 前へ |次へ |
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